【コラム】レーシングドライバーのためのメンタルトレーニング
私は、TGR-DCレーシングスクール、KYOJO cup参戦ドライバーの心理面のサポートを担当しています。
今回は、レーシングドライバーのためのメンタルトレーニングについてご紹介したいと思います。
時速300㎞を超えるスピードでサーキットを駆け抜けるモータースポーツの世界でもメンタル面のコントロールの重要性は言うまでありません。レーシングドライバーにはどのようなメンタル面が必要なのでしょうか?
レーシングドライバーに必要なメンタル面の要素
佐藤ら(2002)は、国内トップレベルのレーシ ングドライバーについて調査し、必要な“心理的競技能力”の特徴に ついて報告している。具体的には、「冷静さ」、「緊張のコントロール」、「集中力」、「状況判断力」、「知性」、「学習能力」、「努力を続けるため に必要なモチベーション」、「コミュニケーション 能力」が挙げられています。
※心理的競技能力とは、アスリートが競技場面で必要とする精神力(徳永, 2000)
筆者は、この特徴の中でも「緊張のコントロール」、「集中力」が重要な心理的スキルだと考えています。
① 緊張のコントロール
モータースポーツにおいて、レースのスタートは重要な局面である。と言うのも、レースの中で非常に順位の変動が大きいにがスタートだからである。そのため、レーシングドライバーにはスタート時に大きなプレッシャーがかかることが想定されるため、これらの状況下での緊張のコントロールが重要です。
前回、緊張のコントロールについてはサッカーのメンタルトレーニングのコラムで触れたので、そちらを参考にして頂きたい。
②集中力
集中力とは、専門用語で言うと「注意集中」と言います。簡単に言えば、雑念や妨害要因にとらわれず、自分自身のパフォーマンスに意識を向けることです。モータースポーツでは、ドライバー自身のドライビングに集中することが重要です。しかしながら、モータースポーツではマシン(車)の要因や環境要因(天候・路面温度等)がパフォーマンスに影響することもあり、ドライバーの気を散らす要因が多く存在しています。これらのマシンや環境について考え過ぎてしまって、肝心な自分自身のドライニングへの集中が散漫になることも少なくありません。もちろん、マシンの理解を深めてセッティングを工夫することや状況に応じて対応していくことは悪いことではありません。
しかし、そのことばかりに意識を向けてしまい自分のドライビングが疎かになってしまっては、パフォーマンスの向上は期待できません。
そこで、集中力を高める上で重要なことは、レースのスタート時には頭の中をシンプルにし、「自分のドライビングに集中すること」です。そのために、「自分のコントローラできること・コントロールできないこと」を分別することが重要です。
あなたがコントロールできることは何でしょうか?答えは、「あなた自身」です。
一方、コントロールできないことは何でしょうか?答えは、「環境、他人、結果(過去・未来)」などが挙げられます。
そのため、コントロールできないことに目を向けるのではなく、あなたがコントロールできることに意識を向ける努力をしましょう。
モータースポーツは競技特性上、環境の要因やマシンの状態などが影響しやすいため、レーシングドライバーがメンタル面をコントロールするは簡単ではありません。
しかし、この心理面の課題は全てのドライバーが抱えているため、メンタルをコントロールできるかどうかが試合でのパフォーマンス発揮に必要な一つの要素となるのも言い過ぎではないでしょう。
あなたも、メンタル面強化に取り組んでみてはいかがでしょうか?
<参考文献>
- 徳永幹雄, 吉田英治, 重枝武司, 東健二, 稲富勉, & 斉藤孝. (2000). スポーツ選手の心理的競技能力にみられる性差, 競技レベル差, 種目差.
- 佐藤公俊, & 吉川政夫. (2002). レーシングドライバーに必要な心理的競技能力の特徴–日本のトップレーシングドライバーに対する面接調査に基づく分析. 東海大学スポ-ツ医科学雑誌, (14), 63-70.
スポーツメンタルトレーニング指導士
Ph.D.
小林玄樹